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紗幕越しの川柳
河野潤々
2024年10月8日
#Scene 8
音もなく降りゆくものの水溜まり
田村ひろ子
2024年9月22日開催の文学フリマ札幌でいただいた
『群蝶ミニ川柳選書』から引く。
「音もなく降りゆくもの」に淡雪を思う。
ひとひらひとひら揺れ方の異なる雪が
思い思いの軌跡を描いて地面に舞い降りる。
やがては溶けていくばくかの水溜まりとなり、
太陽光や地熱などに乾いて、あとかたなく消えてゆく。
この光景や時間の流れに、ひとの人生を重ねてみたくなる。
大気中の水蒸気が凍って雪となる成長期。
ときに風(社会)の影響を受けながらも
ゆらゆらと自由に活動するファーストライフ。
舞い降りた雪が水になる退職期。
そして水になってからのセカンドライフ。
ひとの一生を、自然の摂理を受け入れながら、
おだやかな視点で見つめているかのような一編の詩を前に、
紡ぐ言葉の拙さが申し訳ない。
「そのように」
わたくしを流れる水のなまぬるさ
やわらかなことばに誘われて浮藻
いまだけの出逢いと思う蓮の白
蓮の実のふしぎ不思議をかきあつめ
手のひらの湿ったままの小宇宙
音もなく降りゆくものの水溜り
水だったことを教えてくれた風
かすれゆく行書のように そのように
躾け糸抜いて静かによこたわる
百年を生きて乱れぬ雛の髪
田村ひろ子
(2024年9月22日配布 『群蝶ミニ川柳選書(2)』)
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