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せんりゅう、ごちそうさま

笹田かなえ

2025年4月1日

せんりゅう紫波 No.496

薄い本

「せんりゅう紫波」は岩手県紫波町のいわて紫波川柳社で発行しています。

令和7年3月号で496号。月刊誌なので、40年以上の歴史のある結社となります。

紫波町は「銭形平次」の作者、野村胡堂の出身地です。紫波川柳社と野村胡堂の関係を、紫波川柳社編集人である熊谷岳朗さんにお聞きしました。

以下に岳朗さんからのお話をご本人の許可を得て、掲載させていただきます。


 

川柳と関わりの深い野村胡堂の生家と記念館は紫波町にあります。


野村胡堂は東京帝国大学(現・東京大学)在学中、『柳多留』に夢中になりフランス語の法律の授業中も読みふけったということです。そのことは外国人教授に叱られましたが、その没頭した古川柳が江戸の様子を醸し出し銭形平次を生み出したのです。『銭形平次捕物控』三百八十三編、映画三十二作、テレビ放映八百八十八話にまで及びます。古川柳が生涯助けてくれたと言うのもわかります。


また、当時の一流紙、報知新聞社に勤めておりましたが、社会部長だった頃、販売競争に打ち勝つために、「時事川柳欄」を企画しました。これは初めての事で、時事川柳という一つのジャンルを切り開いたのは私のささやかな自慢でもあると自叙伝で述べています。


その野村胡堂記念館は近くにあります。そんな関係から記念館で川柳教室を何度か、また会として「野村胡堂子ども川柳大会」を開催して参りました。


紫波川柳会は昭和五十八年、新聞やラジオに投句している仲間が集まって発足したものです。今では全国各地の作家が支えてくれています。その柳誌『せんりゅう紫波』は今年の七月で500号を迎えます。野村胡堂も視ています。頑張らねばと思います。よろしくご指導のほどお願いします。

                                    熊谷岳朗


 

会員さんは岩手県内だけなく全国各地からの投句もあり、活動範囲の広さをうかがい知ることができます。「せんりゅう紫波」の会員さんの作品とこどもたちの川柳を紹介させていただきます。

こどもたちの川柳も伸び伸びイキイキしていて、素晴らしいです。




生き物が雪で隠れた春を待つ  

佐々木多美子


私でも自由の金が欲しいのに  

藤岡トシ


女子会の手作り料理軟らかめ  

ただ しずこ


解けない糸しっかりと絡み合う  

杉浦一子


三回忌臭いの残る夫の服  

石城典子


雪景色人はきれいと言うけれど  

柳澤君子


新芽から階上る場所にいる  

北れい子


「かわいい」は手指の記憶の中にある  

あべ和香


踏み出せば新たな風が背を押す  

笹 美弥子


日に三度鏡を見てもなれぬ美人  

安海和子


手を開き手を結んだらもう日暮れ  

しろ章子


リモコンが言う事きかずそっぽ向く  

多田教子


マフラーが体の温もり包み込む  

清水紀三子


嫁に行く父はいつでもウエルカム  

さとうみつお


体にはあっちこっちにスイッチあるよ  

岩井沢玲子


節分が二月二日で福遅刻  

熊谷恭一


来るかしら楽しい日本わたしにも 

岡村房子


あなた様ウフフはいつもお淑やか 

太田黒文采


窓際の枝つぼみ梅花ひらく  

赤澤智恵子


だんまりも答えのうちと爪が伸び  

芹澤 洋


怪我をする我が身粗末にしての付け  

千葉誠子


そんな手もあったか版図拡げるに  

戸塚 勤


カーナビが教えてくれた謎の道  

大和田純子


ねむけ来てとろりとろりと曲がりネギ  

佐々木るみ子


ヒトメボレかけはしの地で愛されて  

滝浦美津子


三月のまた春がきて母もくる  

佐々木延子


睡眠が取れているのか受験生  

大沼妙子


逝く先を思いあぐねて猫を抱き  

中田さだ子


アクセルが時々緩む旅途中  

漆沢サダ


空腹を満たし優しい顔になる  

袴田 華


十代の私がいるわ三番線  

飯田ふく江


ブレーキが側にアクセル踏んでみる  

杉浦千恵子


ガラス越し背すじピーンと苦笑い  

泉田すみ子


追い風になるのだろうか回れ右  

森下居久美


今日よりも若い日はないさあ今日も  

田口泰子


回覧板「まだおでってこね」いい言葉  

熊谷敏江


生き方を後ろ姿で学びます  

植田百合子


春泥を跳び越す 男って他愛ない  

西 恵美子


少数を捨てた昔を懐かしむ  

佐々木崇之


癖になる白菜漬けの塩レモン  

阿部健一


推敲はここまで風向きが変わる  

柳清水広作


忘れ物探しで歩数稼いでる  

松田文平


アルファベットの看板ここは何屋さん  

小笠原ひとし


状況はどうあれやはり塩むすび  

冨岡敦子


誉めました抱きしめました五十点  

伊藤豊志


温暖化草は私の先を行く 

鷹嘴閲雄


納豆の粘りへ今日を賭けてみる  

熊谷岳朗


 

地球ではゆっくりすすむ温暖化  

小五 和麿


たすけたいゆっくりあるくおばあちゃん  

小一 和佳


ゆっくりと歩いて花を見つけたよ  

小三 幸仁


少しずつ成長してる私です  

小五 瑠莉


宿題はゆっくりとしか進まない  

中二 山崎美優花


朝のぼくとうみんあけのくまみたい  

小二 さいとう広大


東北でのんびりしてる冬しょうぐん  

小三 さいとうそうし


ゆっくりと母にばれずにゲームする  

小三 家子 藍


ゆっくりともちがふくらむお正月  

小三 高橋桜真


おかあさんふたりでねようゆっくりね 

小一 おがさわらあこ


トコトコと愛犬つれておさんぽだ  

小五 向川原綺心


おふろすきおもちゃとママとたのしいな  

小一 十文字ゆい


雪道を焦らず進むゆっくりと 

小六 四日市 憂


うさぎとかめわたしはかめでありたいな  

渡邉渚美子



岩手県は海の幸や山の幸に恵まれていて、美味しいものが沢山あります。そして紫波町はお餅がとても美味しかった記憶があります。お椀にたっぷり盛られた餡子餅、少し塩気のある餡子と滑らかで腰のあるお餅のハーモニーが絶妙でした。それぞれの作品の温かさは、そんな餡子餅の味に似ています。

せんりゅう、ごちそうさまでした。

川柳アンジェリカロゴ
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