花街の花の湿り気 秋深む
笹田かなえ
花街の灯りは、冷えた夜気に濡れながら
ゆっくりと艶の陰りをまとっていく。
すれ違う影の歩幅にも
静かな色気が にじんでいた。
軒先の花に触れると、指先に柔らかい湿りが残る。
その水気の奥には
誰かの囁きや、ほどけた情の残り香が潜んでいる。
秋が深まるたび
この街はひそやかに体温を上げていく
香りも色も、触れ合う距離の近ささえも
少しずつ重みと艶を増してゆく。
夜の深みに溶けていく湿り気は
今日も誰かの袖口へ、そっと移っていくのだろう。
Text/produced by FUJITA Megumi