地下鉄の終着駅は海の中
伊藤良彦
ドアが開いた先は、静かな海だった。
ホームの蛍光灯は水に揺らぎ
光の帯が 深海に沈んでいく。
クラゲが改札を抜け
サメが通路をゆっくりと泳ぐ。
乗客たちは誰も驚かず
濡れた切符を握りしめたまま歩いていく。
「終点、海底です」
アナウンスは淡々としている
でも、ここから先に行ける路線はもうない。
僕だけが気づいていた
息を止めることを
まだ教わっていないことに。
窓の外で魚群が渦を描き
駅名標を覆い隠す。
最後尾の車両には、もう誰も座っていない
ただ、深い海鳴りだけが響いている。
Text/produced by FUJITA Megumi