top of page
川柳で踊らせて
アンジェリカ会員&藤田めぐみ
2025年8月15日
#Act 28

個包装の淋しさ持ち寄って気楽
藤田めぐみ
「ひとつずつに、なってるんですね」
隣の席の人が言って、小袋のお菓子を手に取った。
カサッとした音が、静かな休憩室にやさしく響く。
「そう。誰かにあげやすいかなって」
そう答えたけれど、ほんとは自分のためだった。
食べ過ぎないように、とか
気をつかわせないように、とか
たぶん、いろんな言い訳を一緒に包んでいる。
誰にも触れられていない清潔さ、サッと使える便利さ。
だけど
ひとり分だけをそっと包む、その淋しさ。
誰かと分け合う前提のない、距離のあるかたち。
パッケージに守られている、その裏で
触れ合えないものがある。
誰かが個包装のお菓子をひとつ、ぽんとテーブルに置くと
自然ともうひとつ、またもうひとつ
別のお菓子がそこに並んでいく。
甘いもの、しょっぱいもの、懐かしいもの
それぞれの、淋しさのかたち。
「個包装って、ちょっとさびしいけど」
「さびしいから、分けられるのかもね」
たぶん、これが「気楽」ってことなんだろう。
ちゃんと一人。でも、一人じゃない…かも。
誰かが置いた小さな包みをひとつ開けて、そっと口に運んだ。
Text/produced by FUJITA Megumi
bottom of page



