会員作品を読む
笹田かなえ
2024年9月
2024年9月1日
トンネルを出たら 真っ白 な灰よ
旅男
川端康成の「雪国」、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の冒頭の一文を思い浮かべた。
「真っ白」の前後の一字空けを時間の経過と読んだ。
「灰よ」になるための時間は二通りある。
荼毘に付されて骨になるまで。あるいは苦悩というトンネルを抜けて精魂尽き果てるまでの時間。
シニカルでユーモラス、且つ視覚に訴えて挑戦的な句姿が面白かった。
オルゴール止まったところから砂丘
藤田めぐみ
オルゴールの音色は、ぎこちなくあどけなく子供の片言のようでもある。
甘える事が許されていた季節。でもそんな時間は長く続かない。
止まったオルゴールの先には、茫漠とした砂丘が広がるばかり。
戸惑いながらも砂地に足を踏み入れた瞬間の、ザラリとした感触と言い知れぬ「不安」が読む側に伝わってくる。
そして、前へ歩を進める健気な姿が見える。
まなうらに水草と影 人魚時代の
四ツ屋いずみ
前世の記憶は、不意に思いがけないかたちであらわれる。この場合は「まなうらに」だから目を閉じているのだろう。
ゆらゆらと水草、何かの、誰かの影。体にまといつく滑らかな水の流れもあるかもしれない。
セイレーンとか八百比丘尼などの有名な人魚じゃない、人間になる前を遡って生物としての人魚時代の記憶は、それこそ原初の記憶のようで愛おしい。
さて何処へ孤独捨てよう敗戦日
金瀬達雄
8月15日を終戦記念日とするか敗戦日とするかはそれぞれだ。
日本が先の大戦によって壊滅的な打撃を受けながらも立ち直り、現在の「平和」を生きている私達だが、果たして本当に平和なのだろうか。
ウクライナへのロシアの軍事侵攻、ガザへのイスラエルの容赦ない攻撃。
シリアもミャンマーも内戦が収まらない。
本当の平和を願い、流離う心は重い。
素麺の正論かかとはつるりん
河野潤々
夏の常備食、素麺はつるりとしてのど越しの良さが命。
色々と食べ比べたけれど、私はやっぱり〇〇乃糸かな。
夏と言えば素足にサンダル履き。かかとのお手入れは欠かせない。
昔、芸者さんは耳の後ろを特に念入りにぬか袋で磨いたそうだが
その心意気に「つるりん」としたかかとは通じそう。
それにしても素麺とかかとの取り合わせ、艶っぽくて絶妙。